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ぶっちー、


谷川俊太郎さんは24時間詩人モードなわけではなく、普通にお金のこととか俗っぽいこともたくさん考えてるって話ね。
でも、適度な俗っぽさとか、詩とは全然関係ない趣味とか持っていることが、きっと創作にも活かされてるんだろうな。
俺が大好きなダルビッシュもさ、きっと他のどの野球選手よりも四六時中野球のこと考えてるんだけど、同時に他のどの野球選手よりも野球以外のこと考えてるんじゃないかと思うだよね。
中田ヤスタカも、高城剛もそうだと思う。
突き抜けたプロフェッショナルは、深い専門性だけじゃなくて視野の広さというか、ある種の遊び心を持ってるんじゃんないかな。

多分わたしは、「何の仕事してるの?」って聞かれたときに、
「校正の仕事でお金もらってます」って答えるのが気に入ってないの。
何か自分でも気に入る<何者>かになりたいし
それは多分なにかモノを作ることなんだけど、
それはどうやら建築ではなくて、それはまた雑誌でもなくて、
次は何を試そうかしら。
 
「何か自分でも気に入る<何者>かになりたい」って気持ち、すごくわかる。
俺もそうだもん。

この東京砂漠で「何者かになる」っていうのはさ、ひと言でいうと「社会に認められる立派な肩書きを持つ」ってことなんだと思う。

たとえば有名企業に勤めていたり、社長だったり、有名人だったり、そういう人は周囲から認められ、何者かになる。
そうじゃない人、つまり肩書きがパッとしない人は「何者でもない人」として扱われる。
人間である以上、誰だって何者かではあるはずなんだけど、東京ではそうじゃない。
この大都会で「何者かである or 何者でもない」は、名刺の肩書きや履歴書の経歴が、世間的に立派であるかどうかなんだと思う。

でもそれって、自分自身ではなく他人に定義された<何者>なんだよね。
そして、自分が<何者>かを他人の定義に委ね続けている限りは、自分が気に入る<何者>かにはなれないんだと思う。
少なくとも俺たちみたいなワガママな人間は、ね。

俺は2年前にフリーでライターの仕事をはじめてから、しばらくは社会に認められる<何者>かになろうと頑張ってた。
とりあえずバズりそうな記事をたくさん書いて、ヤフトピにバンバン載せて。
わかりやすい結果を出して、わかりやすい成功を収めようとしていた。
その結果、少しずつ周囲に認められて、仕事のオファーも増えていった。
自分は着実に<何者>かになっていってる気がした。

でも、周囲が認める<何者>かになればなるほど、自分が気に入る<何者>からはどんどん離れていってしまったんだよね。

俺に仕事のオファーをくれた人たちが欲しがっていたのは多くの場合、「内野ムネハル」という個人ではなく、「そこそこ実績のある若手ライター」だった。
俺の記事が超面白いから、という理由ではなく、俺がそこそこ実績のある若いライターだから、という理由で声をかけられることが増えていった。
要するに、使い勝手が良かったんだよね。

東京ではさ、わかりやすく何者かである、ということが重要なんだと思う。
「コイツはこういうキャラ」「コイツはこういうポジション」っていうのがわかりやすい人の方が、キャスティングしやすい。
有名大学教授とか、お馬鹿タレントとか、炎上ブロガーとかね。
「だってこの人、〜大学の教授ですから」ってね。
本当に実力がある人間よりも、第三者に対して説明がつきやすい人間が選ばれる。
で、俺は前者になりなかったはずなのに、どんどん後者になっていってしまっている気がして、これはマズいな、と。
だから今、俺はこれまで自分が作ってきた自分のイメージを少しずつ壊して、自分が気に入る<何者>かになろうとしている。
 
で、最近思うのは、自分が納得できる<何者>かになるためには、ぶっちーの言う通り「なにかモノを作る」しかないんだ、ってこと。

「あなたは何者ですか?」と聞かれたときに、俺は「ライターです」とも「作家です」とも言いたくないし、「〜の代表です」とも言いたくない。
その代わり、自分が心の底から作りたくて作ったモノを見せて「これ作ってる者です」って言いたいんだよね。
基本コミュ障の俺にとっては、それがもっとも自分を伝えやすい方法だと思うから。

もちろん、これまで作ってきたモノは無駄じゃないし、作りたくなかったわけじゃない。
プロとして人に求められるモノを作ることの楽しさもある。
でも、それだけだと、俺が本当に好きなものや考えていることは世の中には示せない。
そして、俺が本当に好きなものや考えていることを示すためには、俺が本当に作りたいものを作り続けるしかない。
中田ヤスタカがPerfumeやきゃりーぱみゅぱみゅをプロデュースしながら、CAPSULEの活動をずっと続けているようにね。 
この交換ブログは、俺にとってそういうものにしていきたいと思ってる。

この社会で<何者>かになりたいけど、他人のモノサシで<何者>かにされたくないワガママな俺たち。
そんな俺たちが、自分たちが気に入る<何者>かになるためには、きっと作るしかないんだろうね。
自分が心の底から納得できる、何かをね。
 
2015.05.15
ハル